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不動産売買に関係する主な行政手続きとは?土地取引で問題になりやすいポイントを実務目線で解説
不動産の売買というと、売主と買主が契約を結び、代金を支払い、登記を移せば完了する。
このように理解されがちです。
しかし、土地の取引では、売買契約とは別に行政手続きが関係する場面が少なくありません。
むしろ実務上は、契約がまとまるかどうか、購入後に目的どおり利用できるかどうかは、行政上の許可・届出・規制の整理に左右されるケースが多くあります。
特に土地は、建物と違い「現況が更地」「利用の自由度が高そう」に見える一方で、
法令・条例による制限を強く受けやすい財産です。
そのため、取引の進め方によっては次のような問題が起こり得ます。
・売買契約は成立したが、農地転用ができず使えない
・造成が必要だが開発許可が下りず、計画が止まる
・土地は買えたのに建築確認が通らず、建物が建てられない
・自治体の条例や指導要綱で想定外の負担や条件が発生した
・許可を前提にしていたが、契約条項が弱くトラブルになった
この記事では、土地取引に関係しやすい主な行政手続きと、実務で問題になりやすいポイントを、行政書士の視点から整理して解説します。
不動産売買と行政手続きは「別の仕組み」で動いている
まず理解しておきたいのは、不動産売買と行政手続きは別の仕組みで動いているという点です。
売買契約は「当事者の合意」で成立する
不動産売買契約は、基本的には売主と買主の合意によって成立します。
価格、引渡し時期、契約条件などを合意し、契約書に署名押印すれば契約は成立します。
行政手続きは「法律・条例に基づく許可判断」
一方、行政手続き(許可・認可・届出など)は、法律や条例に基づき、行政機関が可否を判断します。
つまり、当事者が合意していても、行政が「不可」と判断すれば実現しません。
このズレによって起きる典型的な状況が、次のものです。
「売買契約は成立している」しかし「行政上の許可が得られず、目的が実現できない」
土地取引では、ここが最大のリスクになります。
土地取引で関係しやすい主な行政手続き
土地売買において、特に関係しやすい行政手続きは次のとおりです。
- 農地転用(農地法)
- 開発許可(都市計画法)
- 建築に関する制限(都市計画・建築基準法ほか)
- 条例・指導要綱(自治体独自ルール)
- その他、個別に関係しやすい届出・規制(必要に応じて)
それぞれ、取引にどう影響するかを解説します。
農地転用 「売買できる」と「転用できる」は別問題
地目が農地の場合、転用手続きが必要になる
土地の地目が「田」「畑」など、いわゆる農地である場合、
住宅や駐車場、資材置場など農地以外の用途に使うには、原則として農地転用の手続きが必要になります。
ここで重要なのは、次の点です。
- 売買契約ができるかどうか
- 農地としての利用をやめられるかどうか(転用できるか)
これは別の問題として扱われます。
つまり、売主と買主が売買に合意しても、
農地転用が認められなければ「宅地化」「建築」はできません。
売買が絡むと「5条」になることが多い
農地転用には、4条・5条という区分があります。
- 4条:所有者が自分で転用(自己転用)
- 5条:売買・賃貸など権利移動を伴い、相手方が転用
土地取引では、売買が絡むため、実務上は5条転用が中心になります。
この場合、許可前の契約設計(停止条件等)が極めて重要になります。
契約の進め方を誤ると、後述のとおりトラブル化しやすい領域です。
農地区分によって「転用できるか」が決まる
農地転用の可否は、農地の立地条件等から分類される農地区分で大きく左右されます。
例としては、
- 農振農用地(原則不可)
- 第1種農地(原則不可)
- 第2種農地(条件付き)
- 第3種農地(比較的可)
といった分類があり、同じ「農地」でも難易度が大きく異なります。
この整理をせずに「農地だけど売れるはず」と進めると、取引が止まる典型パターンになります。
開発許可|造成・区画変更・分割利用で問題になりやすい
開発許可が必要になる典型場面
開発許可とは、建物を建てる目的で土地の区画形質を変更(造成等)してよいかを行政が審査する制度です。
土地取引で問題になりやすい典型場面は次のとおりです。
・広い土地を分割して宅地として販売する
・造成工事(盛土、擁壁、排水整備、道路新設等)を行う
・新たな道路接続や排水計画が必要になる
・市街化調整区域などで開発行為が制限される
特に、買主が「土地を買って造成して使いたい」という場合、
契約前に開発許可の要否と見通しを確認しておかないと、後から計画が破綻します。
開発許可は自治体運用差が大きい
開発許可は制度自体は全国共通ですが、実際の運用は自治体ごとに異なります。
・事前協議の要否
・協議先の数(道路、河川、上下水道、消防等)
・審査期間
・図面要求の粒度
・開発指導要綱との連動
これらの差が大きいため、ネット情報だけで判断せず、必ず対象自治体で確認することが重要です。
建築に関する制限「土地は買えたが建てられない」ケースは珍しくない
土地を購入して建物を建てる場合、建築は自由にできるわけではありません。
都市計画・建築基準法等により、次のような制限を受けます。
- 用途地域(建てられる用途・規模が決まる)
- 建ぺい率・容積率
- 高さ制限、斜線制限、日影規制
- 接道義務(建築基準法上の道路に接しているか)
- 市街化調整区域での建築制限
実務で多いのが、次のパターンです。
「土地は購入できた」しかし「想定していた用途・規模の建物が建てられない」
特に接道要件は見落とされやすく、造成や分筆を伴う場合は、建築可否が取引の成否を左右します。
条例・指導要綱 自治体独自ルールが取引条件を変える
自治体によっては、法律とは別に、条例や指導要綱で独自のルールが運用されています。例としては、
- 景観条例(外観・色彩・高さ等の基準)
- 開発指導要綱(道路後退、公共施設負担、緑化等)
- 宅地造成・盛土規制(安全基準、届出・許可)
- 土砂災害警戒区域に関する運用
- 埋蔵文化財の届出・調査
これらは自治体ごとに運用が異なるため、一般論だけでは判断できません。
そして現実には、条例・要綱が原因で想定外の費用や工程が発生することもあります。
土地取引で問題になりやすいポイント(実務の落とし穴)
ここからは、実務で特に問題が生じやすいポイントを整理します。
「買える土地=自由に使える土地」と思ってしまう
土地は売買できても、利用方法に制限がある場合があります。
- 農地で転用が必要
- 調整区域で建築が難しい
- 開発許可が必要
- 接道が足りず建築不可
- 条例で手続きが増える
これらを知らずに進めると、取得後に計画を見直す必要が生じます。
「買えるか」ではなく、「買った後に目的どおり使えるか」を最初に確認する視点が重要です。
行政手続きの可否確認前に売買契約が先行してしまう
行政手続きの可否を確認する前に売買契約を締結すると、後から
・条件変更
・追加費用の負担調整
・契約解除の交渉
・手付金・違約金をめぐる紛争
などが発生する可能性があります。
特に農地転用(5条許可)や開発許可が絡む案件では、実務上、
許可取得を停止条件とする契約設計や、必要な条項の整備が不可欠になります。
インターネット情報だけで判断してしまう
行政手続きは、土地ごとの状況と自治体運用によって結論が変わりやすい分野です。
同じ「農地転用」「開発許可」という言葉でも、
・農地区分
・都市計画区域
・接道状況
・造成規模
・用途
・自治体の審査運用
によって結果が変わります。
そのため、ネット情報は参考にはなっても、最終判断の根拠にはなりにくいのが現実です。
実務では、対象自治体への事前相談と、必要に応じた専門家の整理が重要になります。
土地取引をスムーズに進めるための実務的チェック項目
土地取引で行政手続きが絡む可能性がある場合、契約前の段階で次のような項目を整理しておくと、手戻りを大幅に減らせます。
- 地目・現況は農地か(農地転用の要否)
- 農地区分(転用難易度)
- 都市計画区域区分(市街化/調整区域、用途地域)
- 開発許可の要否(造成、分割、区画変更の有無)
- 建築可否(接道、用途制限、規模)
- 条例・要綱の適用(景観、盛土、文化財等)
- 取引スキーム(停止条件、条件付き契約の必要性)
これらを整理し、必要に応じて関係機関への確認を行い、当事者が「進められる案件か」「どこがボトルネックか」を把握できる状態にすることが重要になります。
まとめ
最後にポイントを整理します。
・不動産売買と行政手続きは別の仕組み
・土地取引では許可や届出が関係することがある
・農地転用や開発許可が問題になるケースは多い
・建築制限や条例・指導要綱で計画が左右されることがある
・契約前に行政上の制限を整理することが重要
土地の取引では、契約内容だけでなく、行政手続きや法令上の制限を含めて整理する視点が欠かせません。
特に、農地転用や開発許可が絡む案件では、初動の整理不足がそのまま「売れない」「使えない」「契約がまとまらない」につながります。
※本記事は、不動産売買に関連する行政手続きや法令上の考え方を一般的に整理したものであり、不動産の仲介・斡旋を行うものではありません。