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盛土規制法とは?制定された背景と造成許可申請の重要ポイントを解説
2023年に本格施行された 盛土規制法(正式名称:宅地造成及び特定盛土等規制法) は、造成工事・土地利用を行う事業者や土地所有者に、これまで以上に大きな影響を与える制度です。国土交通省と農林水産省の共管法として、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する枠組みが整備されました。
一方で、制度の背景や狙いを理解しないまま計画を進めると、次のようなリスクが現実に起こり得ます。
- 規制区域に該当しており、許可・届出が必要なのに見落とす(無許可工事リスク)
- 交渉・契約後に手続要否が判明し、工程・資金計画が崩れる
- 開発許可や建築確認が見えていても、盛土規制法で止まる
- 既存造成地の改修・再造成で、現行基準への適合を求められる
本記事では、盛土規制法が制定された背景を踏まえたうえで、造成許可申請(許可・届出)で実務上押さえるべきポイントを体系的に整理します。
盛土規制法が制定された最大の背景|熱海土石流災害と「規制の空白」
盛土規制法制定の直接的な契機として、2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害が挙げられます。熱海市の調査報告書では、2021年7月3日に逢初川上流で土石流が発生し、28名が犠牲となった旨が記載されています。
この災害を通じて問題になったのは、単に「盛土が危険だった」という点にとどまりません。国土交通省の整理でも、熱海災害を踏まえ、危険な盛土等に対する法規制が十分でないエリアが存在していたことが指摘され、旧法を抜本改正して新法が整備された経緯が示されています。
つまり、危険な盛土が存在しても、制度上の対象外となり得る“隙間”があったことが、立法上の大きな反省点でした。
従来法の限界なぜ旧宅地造成等規制法では防げなかったのか
旧制度(宅地造成等規制法)は、名前のとおり「宅地造成」を中心に組み立てられた枠組みであり、規制の射程が限定的になりやすい側面がありました。
国土交通省は、抜本改正のポイントとして、次の方向性を明確にしています。
- 宅地、農地、森林等の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定する(スキマのない規制)
- 農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、規制区域内の盛土等を許可対象とする
この整理から分かるとおり、盛土規制法は「旧制度の延長」ではなく、規制の思想そのものを用途基準から危険性基準へ転換した制度です。
盛土規制法の基本思想|「用途」ではなく「危険性」で規制する
盛土規制法の最大の特徴は、次の一点に集約されます。
土地の用途や目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で規制する
この点は国土交通省の制度説明でも明確です。
そのため、次のような“従来は規制の意識が薄かった”計画でも、区域指定や工事内容によっては許可・届出が必要になり得ます。
- 農地への土砂搬入、農地造成(実態として盛土・切土を伴うもの)
- 山林での造成、資材置場・駐車場整備
- 土石の一時的な堆積(いわゆる土捨て行為を含む)
- 太陽光発電設備の造成(計画規模・区域により)
東京都の制度説明でも、宅地造成の盛土・切土に限らず、単なる土捨て行為や土石の一時的な堆積も規制対象となり得ることが示されています。
規制区域の考え方|「都市計画区域」とは別の発想で指定される
盛土規制法では、都道府県等が、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を「規制区域」として指定します。
ここで重要なのは、都市計画区域の内外とは別のロジックで指定されるという点です。
実務上よくある落とし穴は次のとおりです。
- 「都市計画区域外だから大丈夫」と思い込む
- 「宅地造成じゃないから対象外」と判断する
- 「既存の造成地を少し触るだけ」と軽く見てしまう
盛土規制法は、まさにこうした思い込みを前提から崩す制度です。
造成許可申請(許可・届出)が必要になる工事の範囲
盛土規制法では、規制区域内で一定の盛土等を行う場合、許可または届出が必要になります。
対象になりやすい工事類型(実務で相談が多いもの)は、概ね次のとおりです。
- 盛土・切土を伴う造成(宅地、事業用地、駐車場、資材置場等)
- 擁壁の新設・改修(再造成、やり替えを含む)
- 農地・山林の造成(“用途”ではなく工事実態で見る)
- 土石の一時的な堆積(置き場・仮置きの計画)
なお、「許可か届出か」は、工事規模や危険性等で変わります。自治体の運用(条例・細則による上乗せ)もあり得るため、区域該当性と手続区分をセットで確認する必要があります。
造成許可申請で必ず押さえるべき7つの重要ポイント
ポイント① 規制区域の該当性確認が最優先
盛土規制法では、都道府県等が危険性の観点から区域指定を行うため、まずは「その土地が規制区域か」を確認します。国の整理でも、用途にかかわらず、被害を及ぼしうる区域を指定する仕組みが示されています。
初動での区域確認が遅れるほど、計画修正コストが増えます。
ポイント② 許可か届出かの誤判定は、是正指導・工程停止の火種
規模・工法・地形条件により手続区分が変わります。自治体によっては条例・細則で運用が具体化されているため、要件の読み違いが起きやすい領域です。
ポイント③ 安全性(技術基準)への適合は「設計力」が問われる
国土交通省は、安全性確保の枠組みとして、地形・地質等に応じた許可基準を設定し、施工状況の定期報告や中間検査、完了検査等により安全対策を担保する考え方を示しています。
つまり、書類作成だけでなく、計画自体が技術的に成立しているかが問われます。
ポイント④ 他法令との関係整理(開発許可・農地転用・建築確認)
盛土規制法は、他の許認可と「別枠」で動きます。
開発許可や農地転用、建築確認が見通せても、盛土規制法の整理が抜けていると止まります。逆に盛土規制法で「危険性が高い」と判断される計画は、他法令側でも実務的に前へ進みにくくなります。
ポイント⑤ 既存造成地でも対象になり得る(改修・再造成のリスク)
古い擁壁や、過去の造成を前提とした再造成は、現行基準での安全性確認が問題になり得ます。
「昔からあるから問題ない」という発想が通用しない場面があるため、過去資料の収集と現況調査が重要です。
ポイント⑥ 工事着手後の発覚は取り返しがつかない
無許可工事・無届工事は、工事停止や是正・原状回復などの重大リスクにつながります。
実務的にも、着手後の修正は費用・工程への影響が甚大です。契約・着工の前に手続判断を確定させる必要があります。
ポイント⑦ 事前相談が結果を左右する
盛土規制法は、区域判断・手続区分・必要図書・審査観点のすり合わせが重要で、計画段階の協議が結果に直結します。国の整理でも、許可基準に沿った安全対策の確認や検査の枠組みが制度として組み込まれており、行政側の確認プロセスを前提に計画を組むことが求められます。
盛土規制法の造成許可申請は、なぜ行政書士の関与価値が高いのか
盛土規制法の対応は、単なる申請書作成では終わりません。実務では少なくとも次が必要になります。
- 規制区域・手続区分の一次判定(初動の見誤りを防ぐ)
- 計画成立性(安全性・工程・費用)の整理
- 他法令(開発許可、農地転用、林地開発、建築等)との横断調整
- 行政との事前協議に向けた論点整理と資料設計
盛土規制法は、熱海災害等を背景に「スキマのない規制」「安全性確保」を制度目的としているため、形式ではなく実質が見られる分野です。
そのため、計画初期での整理業務が、時間・費用・リスクの削減に直結します。
まとめ
盛土規制法は、過去の災害の教訓を踏まえ、人命・財産を守るために整備された法律です。熱海市の報告書でも、2021年の土石流災害の甚大な被害が記録されています。
国土交通省も、熱海災害等を契機として旧法を抜本改正し、用途を問わず危険な盛土等を規制する枠組みに改めたこと、2022年公布・2023年施行であることを示しています。
実務で押さえるべき要点は次のとおりです。
- 規制区域の該当性確認が最優先(都市計画区域とは別軸)
- 許可か届出かの判断を誤ると、是正・停止リスク
- 技術基準適合は計画内容そのものが問われる(検査・報告の枠組みあり)
- 他法令との横断整理が不可欠(開発許可・農地転用・建築等)
- 着工後の発覚は損失が大きいので、計画段階で事前協議を行う
造成・盛土・土地利用を検討している場合は、契約や着工の前に「区域」「手続」「成立性」「他法令」を一体で整理することが、最も堅実な進め方です。
※本記事は制度の一般的な考え方を整理したものであり、個別案件の可否を断定するものではありません。実際の判断は、土地の状況、工事内容、自治体運用により異なります。