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農振除外とは?農地転用・土地活用の前に必ず確認すべき重要な手続き
「農地に家を建てたい」
「駐車場や資材置場として使いたい」
「相続した土地を売却したい」
こうした土地活用の相談で、実務上とても多いのが、次のような状況です。
- 農地転用の準備を進めていたのに「そもそも申請できない」と言われた
- 不動産会社に「農振が絡むと時間がかかる」と言われた
- 計画を詰めてから農用地区域だと分かり、スケジュールが崩れた
この原因になりやすいのが 農振除外(のうしんじょがい) です。
農地転用は比較的知られていますが、実務では 農地転用の前段階として農振除外が必要になるケースが少なくありません。
農振除外を見落としたまま計画を進めると、農地転用の申請自体ができず、土地活用や不動産取引が長期間止まってしまうことがあります。
この記事では、農振除外の基本的な考え方、農地転用や開発許可との関係、実務上の注意点を整理して解説します。
農振除外とは何か
農振除外とは、農業振興地域の整備に関する法律に基づき、農業利用を確保すべき土地として指定された 「農用地区域」から対象地を外す手続きです。
農用地区域は、簡単に言えば、
- 将来にわたって農業利用を維持する土地
- 原則として農業以外の利用を想定しない土地
として位置づけられています。
そのため、農用地区域内の農地は、原則として農地転用が認められません。
つまり農振除外は、
「この土地は農地として守るべき土地」という扱いを一度外し、
農地転用に進むための入口を作る手続きと理解すると分かりやすいでしょう。
なぜ農振除外が必要になるのか
農地転用を検討する際、次のような情報に目が向きがちです。
- 市街化区域か、市街化調整区域か
- 用途地域は何か
- 地目は農地か宅地か
- 接道や排水は確保できるか
しかし、農用地区域かどうかは別の軸で決まります。
例えば、
- 市街化区域ではない
- 市街化調整区域でも例外に該当しそう
- 周辺は宅地化が進んでいる
といった条件がそろっていても、
農用地区域内に入っている土地であれば、農振除外を経なければ農地転用に進めません。
この「別軸」があるため、農振除外は見落とされやすいのです。
農振除外と農地転用の手続きの順番
実務上、手続きの順番は原則として次の流れになります。
農振除外 → 農地転用
農振除外は、
- 農地転用の可否を判断する前提
- 農地転用の入口に位置する手続き
です。
つまり、農地転用を検討するなら、まず
- その土地が農用地区域かどうか
- 農振除外が必要かどうか
を確認することが、最初の重要ポイントになります。
農振除外の申出先はどこか
農振除外の申出先は、対象土地が所在する 市区町村役場 となるのが一般的です。
担当部署名は自治体によって異なりますが、例としては次のような名称が多く見られます。
- 農政課
- 農業振興課
- 農林課
- 農業委員会とは別部署(自治体による)
また、同じ地域でも、
- 市が窓口なのか
- 町村が窓口なのか
- 県との調整が必要か
など、運用が異なることがあります。
自治体ごとの運用差に注意
農振除外は、自治体ごとに次の点が大きく異なります。
- 申出時期(受付期間)
- 必要書類
- 事前協議の要否
- 審査の進め方(関係部署協議、現地確認など)
特に大きいのが 受付回数とタイミング です。
多くの自治体では、
- 年1回のみ受付
- 年2回のみ受付
- 申出期間が数週間に限定される
といった運用がされています。
このタイミングを逃すと、次の受付まで待つ必要があり、土地活用や不動産取引のスケジュールに大きく影響します。
「思ったより時間がかかる」ではなく、
制度上、受付できない期間が存在するという点が、農振除外の難しさです。
農振除外の主な要件
農振除外は、申出をすれば必ず認められる手続きではありません。
実務上、特に重視される要件は次のとおりです。
要件① 代替性がないこと(ここが最大のハードルになりやすい)
「なぜこの場所でなければならないのか」
「他の土地で代替できないのか」
が厳しく確認されます。
単に、
- 便利だから
- 自分の土地だから
- 近いから
だけでは弱く、計画の合理性が問われます。
要件② 周辺農地への影響が少ないこと
農振除外は、周辺農地の利用環境に与える影響も判断されます。
- 排水で周辺に影響が出ないか
- 農作業や通作の妨げにならないか
- 周辺の営農継続に支障がないか
などが見られます。
要件③ 土地改良事業との関係
土地改良事業の対象地や、事業完了後まもない農地については、一定期間、農振除外が認められにくい場合があります。
ここは個別性が強く、事前確認が重要です。
農振除外は随時できる手続きではない
農振除外は、
- 受付期間が決まっている
- 年1回または年2回のみ
- 審査に一定期間かかる
という性質のため、売買契約や工事契約が先行すると、後から調整が難しくなることがあります。
実務上よくある失敗は次のとおりです。
- 先に工期を確定させたが、受付期間に間に合わない
- 売買契約を進めたが、農振除外の見込みが立たず条件変更になった
- 融資実行時期と手続きの順番が噛み合わず資金計画が崩れた
農振除外が絡む可能性がある場合は、契約・着工・融資のスケジュールを「農振の受付回数」を前提に組む必要があります。
開発許可との関係にも注意が必要
農振除外は、農地法だけで完結する手続きではありません。
計画内容によっては、次のような制度との整合性も同時に問題になります。
- 開発許可(都市計画法)
- 建築の可否(建築基準法、用途制限、接道等)
- 条例・指導要綱
- 盛土規制など造成関係の手続き
農振除外の見込みが低い計画は、開発許可の事前相談の段階で否定的に扱われることもあります。
逆に、開発の見通しがない計画は、農振除外の合理性(必要性)を説明しにくくなることもあります。
農振除外・農地転用・開発許可は、セットで整理するべき領域です。
事前調査が最大のポイント
農振除外は、
- 出してみないと分からない
- 時間をかければ何とかなる
という性質の手続きではありません。
むしろ、計画初期に
- 農用地区域該当の有無
- 自治体の受付時期・運用
- 代替性・周辺影響の見通し
- 土地改良事業等の制約の有無
を整理した段階で、
「進めるべきか」「計画修正が必要か」「そもそも難しいか」
の方向性が見えやすい分野です。
この段階で、
- 計画を見直す
- 別の土地利用を検討する
- 進めない判断をする
ことは、時間と費用のロスを避けるうえで大きなリスク回避になります。
まとめ
農振除外は、農地転用や土地活用を検討する際に最初に確認すべき重要手続きです。
- 農用地区域内では原則として農地転用不可
- 農振除外は農地転用の前提となる
- 申出先は原則として市区町村役場
- 自治体ごとの運用差が大きい(受付が年1回・年2回など)
- 代替性・周辺影響・土地改良事業が大きな判断要素
- 開発許可や建築の可否とセットで整理すべき
農地を含む土地活用や不動産取引では、
農地転用だけでなく、農振除外の要否を早い段階で整理することが不可欠です。
※本記事は、農振除外に関する一般的な制度や考え方を整理したものであり、個別案件の可否を断定するものではありません。実際の判断は、申出先自治体の運用や個別事情によって異なります。