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農地転用と開発許可はどちらが先?農地に建物を建てるときの手続きの順番を実務目線で解説
「農地に家を建てたいが、何から始めればよいのかわからない」
「農地転用と開発許可は、どちらを先に進めるのか?」
農地に住宅・アパート・店舗などを建てる計画を立てたとき、最初に立ちはだかるのが手続きの順番です。
建築の話を先に進めたいと思っても、農地は法律上、宅地とは違い一定の保護がされているため、いきなり建築確認や着工に進むことはできません。
実務では、農地に建物を建てる場面で、
- 農地法(農地転用:4条・5条など)
- 都市計画法(開発許可)
- 建築基準法(建築確認、接道、用途制限等)
- その他条例(盛土規制、景観、土砂災害、文化財など)
が絡み合います。このうち特に重要で、順番を誤ると計画が止まりやすいのが、「農地転用」と「開発許可」の関係です。
この記事では、次の点を整理して解説します。
・農地転用と開発許可の違い
・どちらを先に進めるのが基本なのか
・同時に進められる例外的なケース
・農地転用で必要となる書類の「考え方」
・よくある誤解と、手戻りを防ぐ初期確認のポイント
土地活用や自宅建築を検討している方が、最初の段階で「何をどう進めればよいか」を判断できる内容になっています。
農地に建物を建てるときに関係する2つの手続き
農地に住宅やアパート、店舗などを建てる場合、すぐに建築の話に進めるわけではありません。
農地は、食料生産の基盤として保護されるべき土地であるため、用途変更や造成が自由にできない仕組みになっています。
その中でも特に重要なのが、次の2つです。
- 農地転用(農地法)
- 開発許可(都市計画法)
両者は目的も審査視点も異なります。まずは違いを明確にしましょう
農地転用とは 「農地として使うのをやめてよいか」を判断する手続き
農地転用の目的
農地転用とは、簡単に言えば
その土地を農地として使うことをやめ、農地以外(宅地・駐車場等)にしてよいかを行政が確認する手続きです。
農地は、所有者が自由に宅地へ変更できる土地ではありません。
農地以外の目的で利用しても支障がないか、周辺の営農環境に悪影響がないか等を、行政(農業委員会等)が審査します。
4条・5条の概要(建物を建てる場面でよく出る)
農地転用は、よく 4条 と 5条 が問題になります。
- 4条:自分で使うために転用(自己転用)
例:自分の家を建てる、自分の駐車場にする - 5条:売買・賃貸など権利移動を伴い、他人が使うために転用
例:第三者に売って宅地にする、事業者に貸して店舗用地にする
農地に建物を建てる計画では、自己住宅なら4条、売買絡みなら5条、という整理が多くなります。
農地転用で一般的に必要となる書類(考え方)
農地転用手続きでは、土地の状況や利用目的に応じて複数の資料を提出します。
代表的なものは次のとおりです。
・農地転用の申請書(または届出書)
・土地の位置が分かる図面(位置図、案内図等)
・現況が分かる写真
・利用計画が分かる資料(配置図、平面図、造成計画等)
ただし、ここで重要なのは「書類名を覚えること」よりも、書類が求められる理由(審査の視点)を理解することです。
農地転用で審査されるのは概ね次の3点です。
- その土地で転用する必要性があるか(目的の合理性)
- 周辺の営農環境に悪影響がないか(排水、日照、粉じん等)
- 転用が確実に実行されるか(資金計画、工期、権利関係)
そのため、提出資料も「土地がどこにあり、どのように使い、実現可能か」を説明する構造になっています。
自治体によって様式や求められる図面の粒度が異なるため、実務では事前相談で必要書類の確定を行うのが基本です。
開発許可とは 「造成してよいか」「インフラ・安全性は確保されるか」を判断する手続き
開発許可とは、都市計画法に基づき、建物を建てる目的で土地の区画形質を変更(造成等)してよいかを行政が審査し、許可する制度です。
審査の中心は、農地転用とは異なり、
・道路との接続(接道、幅員、管理)
・排水計画(雨水・汚水の処理)
・周辺環境への影響(災害、勾配、擁壁など)
・公共施設の負担(道路、水路等)
といった 安全面・環境面・インフラ面です。
つまり、
- 農地転用:農地として手放してよいか(農業保護の観点)
- 開発許可:造成して建てても安全・適正か(まちづくりの観点)
と、制度趣旨が異なります。
だからこそ「どっちが先か」が問題になります。
結論:原則は「農地転用が先、開発許可が後」
結論として、実務では多くの場合、次の順番で進めます。
① 農地転用(4条・5条)の可否確認・申請
② 開発許可(必要な場合)の申請・協議
理由はシンプルで、農地のままでは建築計画や造成計画の前提が成立しないためです。
農地転用が認められない土地について、開発許可のための詳細設計や関係機関協議を進めても、最終的に無駄になる可能性が高い。
そのため、まず農地転用の「入口」を固めてから、開発の詳細へ進むのが合理的です。
特に相続や売却を伴うケースでは、先に転用の見通しを立てずに動くと、契約や費用が宙に浮きやすくなります。
ただし「同時進行」や「並行調整」ができる場合もある(例外)
一部のケースでは、農地転用と開発許可を同時に調整しながら進められることもあります。
ただしこれは、土地条件や自治体の運用が比較的単純で、見通しが立つ場合に限られます。
同時進行が起こりやすい例
・周囲がすでに住宅や建物に囲まれている土地(宅地化が進行している)
・農地としての利用実態がほとんどない土地
・小規模な建築で、大きな造成を伴わない計画
・自治体の運用として、農業委員会と開発担当課が内部連携し、審査の整合を取っている場合
このようなケースでは、「農地転用が見込みあり」と判断できるため、開発許可の準備を並行して進めることがあります。
ただし、ここで必ず押さえるべき注意点があります。
同時に進められる場合でも、農地転用が認められなければ最終的に開発許可は意味を持たないという点です。
言い換えれば、同時進行とは「順番が不要になる」ことではなく、スケジュール短縮のために並行して準備するという意味に過ぎません。
よくある誤解 順番の取り違えが手戻りを招く
農地に建物を建てたい方の相談で、特に多い誤解を整理します。
誤解① 建築会社に相談すればすべて進むと思っていた
建築会社は建物計画には強い一方で、農地法や開発許可の判断は専門領域です。
農地の手続きが未確認のまま設計や見積を進めると、途中で
「農地転用が難しい」
「開発許可が必要で計画変更」
などの理由で止まることがあります。
初期段階では、建築の前に「土地として成立するか」の整理が不可欠です。
誤解② 家を建てるだけなので農地転用は不要だと思っていた
農地である限り、原則として農地転用が必要です。
例外的に農業用施設等で転用に当たらないケースもありますが、一般的な住宅・店舗は転用が前提になります。
誤解③ インターネットで「同時にできる」と見たので自分もできると思った
同時進行の可否は、土地の条件と自治体運用によって異なります。
同じ「農地」でも、農地区分、市街化調整区域かどうか、造成規模、接道状況などで結論が変わります。
ネット情報だけで判断すると、手戻りが生じやすい領域です。
農地に建物を建てられるかどうかは「初期の確認」でほぼ決まる
農地に関する手続きは複雑に見えますが、実務では初期確認で方向性がほぼ決まることが多いです。
初期に整理すべき主なポイントは次のとおりです。
・その土地は本当に農地か(現況・地目)
・農地区分は何か(転用難易度が決まる)
・都市計画区域はどうか(市街化/調整区域など)
・転用後の用途は何か(住宅、駐車場、店舗等)
・造成が必要か(開発許可の要否、排水、擁壁)
・建築基準法上の道路に接しているか(建築可否に直結)
これらを先に整理してから、
「必要な手続きは何か」
「どの順番で進めるべきか」
を確定することで、無駄な手戻りを防げます。
実務フローのイメージ 農地に家を建てる場合の標準的な流れ
ここまでを踏まえ、一般的な流れをイメージとして整理します。
- 役所で事前相談(農業委員会、都市計画・開発担当課)
- 農地区分、区域区分、開発許可要否の一次判断
- 転用目的に合わせた計画整理(配置・排水・道路接続など)
- 農地転用(4条または5条)の申請(または届出)
- 必要に応じて開発許可の事前協議・申請
- 許可取得後に造成・工事着手
- 建築確認申請、着工
案件によって順番の細部は変わりますが、農地転用の見通しが立つ前に造成・建築へ突入しないことが共通の原則です。
まとめ
最後に要点を整理します。
・農地に建物を建てる場合、重要手続きは「農地転用」と「開発許可」
・農地転用は「農地をやめてもよいか」を判断する手続き
・開発許可は「造成して建てても安全・適正か」を判断する手続き
・原則は「農地転用が先、開発許可が後」
・同時進行できる場合もあるが、土地条件・自治体運用次第で例外的
・早い段階で、農地区分、区域区分、用途、造成要否、建築可否を整理すべき
農地に関する手続きは、後から修正が難しいケースも多くあります。
不明点がある場合は、計画の初期段階で一度整理しておくことが、結果的に最短ルートになります。