経営革新計画のメリットについて解説

「自社で新規事業に取り組みたいので金融機関から融資を受けたい」「国や都道府県の補助金を活用して設備投資を行いたいけど有利になる方法はないか」「新商品を開発して特許を取得したいけど特許料の負担が大きい」「外国人の優秀な人材を確保したい」等の中小企業の方から相談を多く受けます。

このような中小企業の要望に応えることができるのが「経営革新計画」です。中小企業が自社にとって新規事業に取組みに対して、経営指標の向上を目的に計画を策定する「経営革新計画」の承認を受ける事業者が増えています。この経営革新計画の承認の承認を受けると、新規事業を実現するための様々な支援策を受けることが出来ます。

今回は、経営革新計画のメリットについて解説したいと思います。

経営革新計画とは?

経営革新計画とは、中小企業等経営強化法という法律に基づき、中小企業が自社にとっての「新規業活動」の取組に対して「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する計画です。

経営革新計画は申請代表者の本社所在地である各都道府県、複数の中小企業が共同申請で各申請代表者の本社所在地が複数の都道府県をまたがる場合、地方経済産業局、経済産業省に申請して承認を受けることになります。

※詳しい内容は『経営革新計画とは?承認申請の手続きも解説』を参照

経営革新計画のメリット

中小企業が経営革新計画の承認を受けることで9つのメリットがあります。

  • 設備資金及び運転資金を日本政策金融公庫から特別利率で融資
  • 信用保証協会付き融資の保証枠の拡大
  • 中小企業投資育成株式会社からの投資の活用
  • 起業支援ファンドからの投資の活用
  • 海外展開支援事業者への支援制度の活用
  • 特許関係料(審査請求料・特許料)の減免措置
  • 補助金申請時の加点措置・助成金の申請資格の取得
  • 新価値創造展(中小機構)への出展募集時の優遇措置
  • 高度人材ビザ申請時のポイント加算

設備資金及び運転資金を日本政策金融公庫から特別利率で融資

経営革新計画に基づく設備資金及び運転資金に対して、日本政策金融公庫の「新事業活動促進資金」という融資制度においてと特別金利が適用されます。特別金利がてきようされることにより約0.3〜0.9%の金利での融資を受けることが出来るようになります。

信用保証協会付き融資の保証枠の拡大

①信用保証枠の特例

経営革新計画に基づく設備資金及び運転資金に対して通常の保証枠に追加して「別枠」での保証が追加されることにより、債務保証限度額が拡大されます。

【債務保証限度額】

通常保証枠 「別枠」保証枠 債務保証限度額
普通保証 普通保証2億円

(組合は4億円)

普通保証2億円

(組合は4億円)

普通保証4億円

(組合は8億円)

無担保保証 8,000万円

(特別小口保証は2,000万円)

8,000万円

(特別小口保証は2,000万円)

1億6,000万円

(特別小口保証は4,000万円)

②新事業開拓保証の限度額の引き上げ

新事業開拓保証の対象となる研究開発費用について、新規事業開拓保証の限度額が以下のように引き上げられます。

通常限度額 新規事業開拓保証の限度額
2億円以内(組合は4億円以内) 3億円以内(組合は6億円以内)

東京都産業労働局発行『経営革新計画申請について-記載要領と支援策―』より引用

中小企業投資育成株式会社※からの投資の活用

経営革新計画承認事業者は、中小企業投資育成株式会社※より以下のような投資を受けることが出来ます。

  •  会社の設立に際し発行される株式の引受け
  •  増資株式の引受け
  •  新株予約権の引受け
  •  新株予約権付社債等の引受け

※中小企業投資育成会社は、1963年に中小企業投資育成株式会社法において設立され、1986年に民営化された会社された投資会社です。全国に東京都中小企業育成株式会社、大阪中小企業投資育成株式会社、名古屋中小企業投資育成株式会社があります。

起業支援ファンドからの投資の活用

経営革新計画の承認を受けた設立5年未満の事業者が投資の対象になります。

中小企業基盤整備機構が民間のベンチャーキャピタルに出資し、中小企業基盤整備機構から出資を受けた当該民間ベンチャーキャピタル会社が当該承認事業者に投資することで、経営革新計画の承認事業者が資金調達及び経営支援などの支援を受けることが出来ます。

海外展開支援事業者への支援制度の活用

経営革新計画承認事業者が経営革新計画の実施にあたり海外での事業を行う際に以下のような支援を受けることが出来ます。

①スタンドバイクレジット制度

※経営革新計画承認事業が海外展開するにあたり、海外の金融機関から現地の通貨で融資を受ける際に日本政策金融公庫が提携する海外金融機関に信用状を発行してもらうことが可能になります。信用状を発行してもらうことにより、円滑に現地の通貨での資金調達が受けることが出来るようになります。

②中小企業信用保険法の特例

経営革新計画承認事業者が金融機関から海外投資事業関連の融資を受ける場合、保証限度額が引き上げられます。

特許関係料(審査請求料・特許料)の減免措置

経営革新計画承認事業者が商品、サービスを開発して特許出願の際に納付する以下の特許関係料が減免されます。

【特許関係料の一覧表※2022年4月27日現在の特許関係料金】

審査請求料 138,000円+4,000円×請求項数
特許料 1〜3年:毎年4,300円+300円×請求項数

4〜6年:毎年10,300円+800円×請求項数

7~9年:毎年24,800円+1,900円×請求項数

10年:毎年59,400円+4,600円×請求項数

引用元:特許庁WEBサイトhttps://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/hyou.html

補助金申請時の加点措置・助成金の申請資格の取得

【補助金申請時の加点措置】

補助金名称 補助金額・補助率 内容
ものづくり補助金 補助金額:100〜3,000万円

補助率1/2~2/3

中小企業・小規模事業者が取り組む生産性向上に資する革新的・サービス開発・試作品開発・生産性プロセスの改善を行うための設備投資等の一部を補助する制度。
事業承継・引継ぎ補助金 補助金額100〜500万円

1/2

事業承継を機会に経営革新に取り組む中小企業・小規模事業者に対して、事業承継の取組みに要する経費の一部を補助する制度

【助成金の申請資格の取得できる一覧表】

助成金の名称 助成金額・補助率 内容
市場開拓助成事業 助成金額:300万円以内

助成率:1/2

東京都内の経営革新承認事業者が新規取引先の開拓を図るため、国内及び海外の展示会等経費及び新聞・雑誌等による広告費の一部を助成する制度
やまなしイノベーショ創出事業費補助金(研究開発) 補助金額:100〜2,000万円

補助率:1/2

山梨県内の経営革新承認事業者が新製品、新技術の開発に関する経費の一部を補助する制度

新価値創造展(中小機構)への出展募集時の優遇措置

新価値創造展は、中小企業やベンチャー企業が自ら開発した優れた製品、技術、サービスを展示し紹介するイベントが中小機構で毎年開催されています。

民間で開催されている展示会と比べても出展料も安価であり、中小機構が開催するイベントのため毎年注目されています。

この展示イベントの目的は、販路開拓、業務提携といった企業間の取引を実現するためのビジネスマッチングの機会を提供することであるため、経営革新計画を実行する事業者にとってはメリットがあります。

高度専門職のビザ申請時のポイント加算

経営革新承認事業者になると、優秀なITエンジニアや研究者などを雇用する上で雇用される外国人がビザ申請時にメリットがあるだけでなく、経営革新承認事業者も優秀な外国人人材を雇用できるメリットがあります。

ITエンジニアや研究者は「高度専門職」に該当します。経営革新承認事業者に雇用されているITエンジニアや研究者等が高度専門職の在留資格申請する場合に、高度専門職の審査で優遇されるためには70点以上のポイントが必要です。経営革新承認事業者で雇用されていると10点加算されますため、高度専門職の審査でも有利に働きます。

経営革新計画の承認事業者は、下記表のボーナス④に「イノベーションを促進するための支援措置(法務大臣が告示で定めるもの) を受けている機関における就労」がこれに該当します。

引用:出入国在留管理庁『ポイント計算書』リーフレット

まとめ

経営革新計画を実行していく上で、資金面での悩みはつきものです。

近年、国や都道府県の補助金制度を活用して新規事業の取組を検討している企業が増えています。設備投資や運転資金を補助金制度を活用すると自己負担額が軽減されます。

ただ、補助金の場合は採択されたら補助金が給付されるわけではなく、交付決定を受けて設備投資を行い、確定審査を受けて給付されるものであるため、給付までに1年以上の期間を要する場合もあります。

給付されるまでの期間内の資金調達も考えていかなくてはいけないので、経営革新計画の承認を受けていると金融機関から自社にとって有利な条件での借入制度が利用できるなどの支援策も活用できます。

資金面以外にも特許料減免、販路開拓支援などの支援策や間接的ではありますが外国人労働者が高度専門職に該当する場合、ポイント加点によって優秀な外国人人材の確保できるというメリットもあります

また、自社の事業概要、現状の市況など計画書に記載する内容が自社の強み、課題、経営状況などを記載するため、改めて自社を見つめなおす機会にもなりますので、従業員に自社の目標や経営理念を共有するきっかけづくりになります。

新規事業を検討している事業者の方は経営革新計画の作成を検討してみてはいかがでしょうか?