経営革新計画の承認事例について~製造業~

経営革新計画の承認事例について~製造業~

今回は、製造業の経営革新計画の承認事例についてご紹介いたします。経営革新計画は、「新事業活動」の類型の中で「新商品の開発又は生産」「商品の新たな生産又は販売方式の導入」という部分において製造業が一番イメージしやすいかと思います。

当事務所で作成支援をした「宝飾品製造業」「金属研削加工業」の経営革新計画の承認事例についてご紹介いたします。

宝飾品製造業

山梨県の某宝飾品製造業の経営革新計画の事例です。創業60年の老舗企業です。山梨県は、かつては甲府市近郊の金峰山一帯から水晶が産出されたことから宝飾産業が発展し「ジュエリーの街・山梨県」と呼ばれている土地柄のため、宝飾品産業が盛んです。

この企業は、自社で製造した宝飾品を全国の百貨店向けに30代後半以上の年齢層の女性をターゲットとした商品の販売を行っていました。

しかし、宝新型コロナウイルス感染症の影響により売上も落ち込み、新たな商品の開発による販路拡大の必要性がありました。

宝飾品製造業の経営革新計画の内容

・自社でデザインした宝飾品の原型は、外部に製造委託しているため、試作品が希望する形状に仕上がって来ないことが多い。また、外部に出向いてデザインや仕様変更打ち合わせをするため時間のロスが生じており、顧客に迅速な商品提案が出来ていないという課題があった。

・原型や製品の修理や手直し等は、現状は削り磨きのみで、深い傷の箇所を同じ素材の地金で埋める作業や凹みを修繕する作業も外部に委託しているため、納期短縮対応が出来ていないことが課題であった。

・これらの課題を解決するために「3Dプリンター光造形機」「3Dスキャナー」「宝飾専用CADソフト」「レーザー溶接機」といった新たな設備投資を行うことで、今まで外部に委託していた一部の作業を内製化することにより作業効率・生産性・製品開発力・収益性の向上だけでなく、顧客の要望に応じた商品を提案したいと思い、

設備の導入によりオンラインを活用して、顧客にCADで商品画像や造型機を使用して樹脂の試作品を閲覧してもらうことにより、非対面での営業活動も可能になるため、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応したビジネスモデルへの転換をしたいと考えた。

・設備導入により従来は30代後半以上の女性をターゲットとした商品を提供してきたが、今後は20代前半から30代前半の女性もターゲットにした商品開発に力を入れていきたいと考えた。

宝飾品製造業が経営革新計画の承認により受けた結果

「3Dプリンター光造形機」「3Dスキャナー」「宝飾専用CADソフト」「レーザー溶接機」を導入するために「ものづくり補助金」の申請を行いました。ものづくり補助金の申請前に経営革新計画の承認を受けたことで成長加点によりものづくり補助金の審査が優遇され採択されました。経営革新計画の承認を受けていたことで金融機関からの融資も低金利で借り入れが出来ました。山梨県は、他の都道府県とは違い、申請企業の審査会での出席が求められます。審査会で簡単なプレゼンテーションを審査員の前で行う必要があります。審査会は、厳しい質問をされるわけではなく経営革新計画の実行を行うためのアドバイスを宝飾品製造業の専門家のような方が行っていたとのことです。申請企業の業種に応じて審査員も変わると思われます。

金属研削加工業

創業3年目の石川県にある金属研削加工の経営革新計画の作成支援を当事務所で行いました。この会社は、合成繊維を紡糸(繊維状ではない原料を、押出成形の技術を応用して長繊維(フィラメント)に加工する工程)の延伸や巻取を行うためのシステムに組み込まれているローラー(滑り摩擦を回転摩擦に変え、運動の抵抗を軽減するところに使われる円筒形の機械部品)やスピンドル(回転するための軸のこと。紡績の糸を巻き取る軸のこと)という部品をミクロン精度(1000分の1mm。人の髪の毛の100分の1の寸法精度)で研削加工する高い技術を誇る会社です。

石川県には27社の上場企業があり、世界的な建設機械メーカーのコマツは、石川県小松市を創業地としています。コマツの本社は、東京に移転してしまいましたが、小松市内には、小松の工場や関連する企業が多くあります。小松市を中心にして、石川県では製造業が盛んな土地柄です。また、石川県の県庁所在地の金沢市内に本社がある津田駒工業は織機の生産の国内シェアはトップで、高速自動織機の生産では世界トップシェアを占めております。また、澁谷工業はボトリングシステムで国内トップシェアを誇り、海外でも高いシェアを占めています。石川県には技術力の高い企業が多くあることがわかります。

金属研削加工業の経営革新計画の内容

・従来の生産管理方式は、マイクロソフト社が提供する表計算ソフト「Excel」を利用した生産管理を行っていた。新たにAIを活用した生産管理スケジューラシステムを導入することでデータが分散していることによる部門別の情報の共有化したいと考えていた。

・また、AIを活用した生産管理スケジューラシステム導入で「Excelデータへの転記作業時間の短縮」「煩雑する紙書類のペーパーレス化」「受発注・在庫・製造状況をリアルタイムで把握可能」「部門別の情報共有化」「製品データの検索の時間短縮」が可能にしたいと考えていた。

・AIを活用した生産管理スケジューラ導入により「熟練が必要な生産計画作成業務をAIが熟練工の代替えすることで「様々な制約条件を考慮し受注内容に合わせた設備・従業員の人員配置の最適な稼働案の作成」「生産稼働率の効率化」できる。

・現状、繊維機械に特化したローラーやスピンドルの研磨以外にも工作機械などを製造している企業を開拓して、当社が培ってきた研磨加工技術を活かして受注増をしたいと考えていた。

・経営革新計画の実行により付加価値向上、生産プロセスの改善によって生産性向上を進めることで、働き方改革、賃上げなどをはじめとした制度変更などに対応、経済社会の変化に対応したビジネスモデルの転換を進めていきたいと考えている。

金属研削加工業の経営革新計画の承認により受けた結果

AIを活用した生産管理スケジューラを導入するためにものづくり補助金の申請をしたいとの要望があり、当事務所で経営革新計画の申請と同時にものづくり補助金の申請支援も行いました。経営革新計画の承認前にものづくり補助金が採択されたことで、経営革新計画の承認により低金利の融資を金融機関から受けることが出来ました。余談ですが、この会社は政策加点で創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)が適用されたことでものづくり補助金の採択率が上がったと思われます。石川県の経営革新計画は、石川県の担当者が企業を訪問して代表者と面談して、石川県の担当者が審査会で経営革新計画の内容を説明します。石川県の担当者と申請企業の面談においては、経営革新計画の取り組み内容について重点的に聞かれます。

まとめ

今回、経営革新計画の承認事例は当事務所で支援した製造業についてご紹介しました。製造業の場合、新たな設備を導入し従来の生産工程と比べてどれくらい効率出来るかを示す必要があります。製造業の場合、他の業種と経営革新計画や補助金申請と比べて、個人的には比較的計画書の作成が簡潔であり、客観的な指標も示しやすいと思います。特に「ものづくり補助金」などは製造業のイメージも強く、製造業の採択率も他の業種と比べても採択率も高いです。日本もかつては「ものづくり大国」と呼ばれ、現在でも優れた技術は存在しますが、IT技術の進捗や発展途上国の成長により諸外国に追い付かれつつあるのが現状です。自社で生産設備を保有している製造業にとっては経営革新計画の承認で融資、補助金等の資金面以外にも特許料の減免などの技術的な面でも優遇も受けることが可能です。自社の優れた技術で新規事業に挑戦したいと考えている製造業の方は経営革新計画に挑戦してみてはいかがでしょうか。