経営革新計画の承認事例について~IT企業編~

経営革新計画の承認事例について~IT企業編~

当社では経営革新計画の作成支援を行っている中で特に当社で実績が多い業種として多いのは「ソフトウェア業又は情報処理サービス業」の実績が多くあります。「ソフトウェア業又は情報処理サービス業」の中でもSES事業(システム・エンジニアリングサービスの略で企業のITプロジェクトに対してエンジニアを派遣してIT技術力や労働力を提供するサービスのこと)やSler事業(システムインテグレータの略で企業のシステム開発、運用などに関する業務を全て行うこと。)を行っている企業が多いです。今回は、IT企業の経営革新計画の承認事例について紹介したいと思います。

IT企業が経営革新計画の申請をする理由

SES事業やSler事業を展開しているIT企業の多くは二次請け、三次請けの仕事が多く、直請けの仕事に比べて利益率の確保が難しいのが現状です。下請けの仕事が多いと競合他社との差別化が難しく、価格競争に巻き込まれているのが現状です。経済産業省の試算によると2030年までにITエンジニアが79万人不足すると言われており優秀なITエンジニアを確保が難しくなっているというのが多くのIT企業の課題となっています。

IT企業が経営革新計画承認で受けるメリット

当社で経営革新計画の申請した企業の多くが下請けの仕事から直接エンドユーザーと取引するために自社商品を開発して、販路拡大を図るために経営革新計画を作成しているのが現状です。また、経営革新計画の承認を受けていると「ものづくり補助金」の審査で優遇、融資の際に金利が優遇、特許料減免措置を受けるなどのメリットがあるためこれらの制度を受けるために申請する企業が多いです。

経営革新計画の事例

「AIシステム開発の事例」「IOTシステム開発の事例」「前払支払手段発行業者登録した事例」「ITエンジニア教育サービスの事例」「受発注システム開発の事例」「SES事業の要員管理、マッチングサービスシステム開発の事例」についてご紹介いたします。

AIシステム開発の事例

AI(Artificial Intelligenceの略で人工知能のこと)を活用したサービスが増えています。AIの中でも「画像認識」で正常状態と異常状態の画像をAIに大量に学習させ従来目視で行っていた点検作業を効率化、自動化できるシステムや「目視認識」「声認識」等も活用したビジネス需要の拡大が予想される中で、当社が支援したIT企業でもAIを活用したシステムを開発して、既存で取引がなかった取引先との販路拡大を計画している企業が多く見受けられます。AIは今後様々な業種で活用されることが予想され、日本の労働人口不足にも一躍を担う技術であります。「AI問診システム」「AI検温ソリューションシステム」等の計画書を作成した実績があります。また、AIに関するビジネスは事業再構築補助金やものづくり補助金の採択テーマでも多く見受けられます。当社でも経営革新計画と合わせて補助金申請をされる企業が多いです。

IOTシステム開発の事例

IOT(Internet of Thingsの略で様々なものがインターネットにつながる仕組みのこと)技術を活用した開発事例でも経営革新計画の承認申請を多く行っています。IOT技術を活用することで、スマートフォンなどを利用することで、遠隔で状況を確認し、機器の制御なども可能になります。IOT市場も新型コロナウイルス感染症の影響により市場規模が拡大しており今後も需要が増加すると思われます。当社でもIOT技術を活用した「スマート農業」「医療遠隔診断システム」などの事例で申請した実績があります。AI同様に経営革新計画と合わせて補助金申請をされる企業が多いです。

前払支払手段発行業者登録した事例

この事例は稀な事例です。「前払支払手段」とは、商品券、プリペイドカード、商品引換券等は事前に金銭などを支払った上で後の支払い手段として利用、商品引き換えを請求できる手段のことで、資金決済法という法律で定められている手段のことです。

例としては商品券、クオカードなどのプリペイドカード、Suicaなどの電子マネーが該当します。自社でプリペイドカード、Suicaなどの電子マネーを発行する場合、「前払支払い手段発行事業者」登録が必要になります。当事務所が支援した事業者では、既存のIT技術力を活用して静脈認証や指紋認証決済システムを開発するために経営革新計画の承認を受けて、補助金申請も行い採択された実績があります。同業他社があまりやらない事業は他社との差別化もしやすく経営革新計画、補助金申請でも審査員の興味を引くテーマであるため承認率が高くなります。

ITエンジニア教育サービスの事例

冒頭でも紹介しましたが、経済産業省の試算によると2030年までにITエンジニアが79万人不足すると言われており優秀なITエンジニアを確保が難しくなっているというのが多くのIT企業の課題となっています。これを解決するために自社でサービスを開発して、次世代のITエンジニアを育成しようと考えている企業が多くいます。東京都の経営革新計画の承認企業のテーマを見ても「ITエンジニア教育」関連の申請をする方が多くいます。

申請して承認されないわけではないですが、同業他社も多く参入しているため、差別化が難しいのが現状です。審査する側も同じようなテーマで申請していると知識が蓄えられていきますので、審査の目も厳しくなります。申請前の受付機関との面談でも担当者からも厳しい意見や指摘が来る可能性もあるため、「同業他社との優位性と違い」については熟慮する必要があります。

受発注システム開発の事例

先述の「ITエンジニア教育サービス」同様に「受発注システム開発」を選択する企業も多くいます。「受発注システム」は世の中では普及しているため「競合他社との差別化」が難しいです。近年、競合他社も低価格でシステム導入を提案している企業も多いため価格競争に巻き込まれやすい状況にあるため利益率確保が難しいと思われます。ただ、経営革新計画が承認されないわけではありません。審査員の「受発注システム」の知見も豊富だと思われるため、厳しく審査される可能性があります。

SES事業の要員管理、マッチングサービスシステム開発の事例

「SES事業の要員管理、マッチングサービスシステム開発」も多くの企業が申請して承認されています。「ITエンジニア教育サービス」「受発注システム開発システム」と同様に競合他社との差別化が難しく、低価格で提供している企業が多いため利益の確保が難しいと思われます。SES事業の売上の割合が大きいIT企業においては、既存事業の延長線という印象を与え、革新性に欠ける部分があります。仕様面以外にも「新規の取引先の拡大の実現性」「集客方法」などを明確にする必要があります。

まとめ

今回、当事務所で作成支援した経営革新計画のIT企業の事例について紹介させていただきました。経営革新計画については計画名称の通り「革新性」のほかに「新規性」「革新性」が求められます。東京都のWebサイトで毎月、経営革新計画の承認企業(経営革新計画承認企業・承認件数(月別・東京都)|中小企業支援|東京都産業労働局 (tokyo.lg.jp)が発表されています。経営革新計画で多く承認されている計画は承認されないわけではないですが、申請前の面談では競合他社との差別化や集客方法について詳細の説明を求められる可能性があります。新しく事業を立ち上げる際は価格面以外の優位性をアピールすることが大切です。